各界からの
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先崎彰容 / Akinaka Senzaki / 日本大学教授

あの震災以降、どれだけの言葉が紡がれたのだろうか。
まず国を批判する言葉があった。
「再稼働反対!」と絶叫する言葉もあった。
国会前は騒然となり、高らかな声が夜の街灯を震わし、また青空に吸い込まれる日もあった。
だが、私の心を動かす言葉は何一つなかった。
なぜか。
全ての言葉が、私の生活の水準線より一ミリ高かったからだ。
「社会問題を考える」とは、今、踏みしめている生活を離れてはあり得ない。
私という、このかけがえのない、しかしどこにでもいる人間の日常の軌跡から外れた「大問題」など存在しない。
そうだ。
国家のあり方を考えるのに、詩人や英雄はいらない。
僕たちはもっと、散文的であらねばならぬ。
「息衝く」は、言葉ではない。
映像だ。
映像によって人の心を喚起し、考えさせ、言葉を生みだす力を与える。
もう十分に見るに値するではないか。
どこまでも暗い映像のその先に、イデオロギーの左右などぶち抜いた衝撃が襲ってくる。
市井を生きる者たちが、誰にも気づかれることなく抱えている不安・理想・挫折――
掛け値なしに、この作品は、私たちに寄り添っている。