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廣瀬純 / Jun Hirose / 批評家

『へばの』ではロングショット、『愛のゆくえ(仮)』ではミディアムショットがそれぞれ作品全体を支配するショット形態となっていた。前者では、六ヶ所村の風景のなかにつねにすでに投企された状態において若い男女を捉えること、後者では、長い逃亡潜伏生活を脱し外部へとおのれを再び開いていこうとする過程において恋人たちを捉えることが、それぞれ問題になっていたからだ。
『へばの』とディプティカをなす『息衝く』ではクロースアップが支配的ショット形態となっている。六ヶ所村のそれに対するオルタナティヴとして東京に見出されたロングショット、その下で青年たちが共に生き続けていくはずだったもうひとつのパースペクティヴは、トラヴェリングによって回復不能な過去へと押し流され、青年たちは個々に別々の狭いフレームのなかに収まることを余儀なくされている。
しかしどのクロースアップも完全には閉ざされていない。
それぞれの深奥で、ロングショットを希求する情熱がなおも息衝いているからだ。
木村文洋のクロースアップには、まだ存在しない大いなるロングショットへと再び踏み出される新たな一歩としてのミディアムショットのその萌芽が胚胎されているのだ。